糖尿病にかかっていますが、白内障手術は可能ですか?
ご相談者様

白内障との診断を受けたのですが、糖尿病にかかって15年ほど経ちます。現在60代半ばですが、白内障手術を受けられますか? 糖尿病の人では受けられないことがある、と聞いたので心配です。
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おっしゃる通り、かつては糖尿病が進んでいると、「切開創の治りが悪く化膿しやすい」「傷口から細菌が侵入し失明に至る感染症にかかるリスクがある」などの理由で、手術を断られることがありました。そんな旧聞のことが、まだ一部に残っていて、それをお聞きになったのですね。
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現在は、手術後の感染症のリスクはないのですか?
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ゼロになったというわけではありませんが、近年の白内障の手術の進歩は著しいものがあります。手術合併症である感染症にかかるリスクは、切開創の大きさと密接に関連しています。その大きさひとつをとってみても、1980年代には11ミリ、90年代は6ミリ、2000年代に入ると4ミリになり、今ではわずか2~3ミリになっています。これによって糖尿病の人でも、安全に手術を受けられるケースが大幅に増えました。日帰りの手術も可能です。
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では、糖尿病であっても、手術を断られるケースはないと思ってよいですか?
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そうですね。最近はほとんどありません。
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そうなんですね!!
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しかし一概に、断られることはないとは言い切れません。全身状態が悪い場合には、内科治療を優先させることもあります。
糖尿病には、腎症、神経症、網膜症の重篤な全身性の3大合併症があります。進行することによって、全身の血管や神経が傷んできます。血管では微小な血管があるところほど、その影響が出やすく、糖尿病網膜症はそのひとつなのです。この有無と状態によって、白内障手術のタイミングの目安になります。 -
糖尿病網膜症があると、手術は受けられないということでしょうか。
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しかし、そんなことはありません。網膜症が進行している場合は、白内障治療と同時、または前後に治療を行います。薬物による治療、外科的な治療法があります。薬物療法には抗VEGF薬、ステロイド薬などがあり、網膜の浮腫(むくみ)を抑えます。外科的な療法には、レーザー光凝固術と硝子体手術があります。これらを状態に合わせて、組み合わせながら行います。
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網膜症が改善しても、大元の血糖値は高いままのことがほとんどだと思います。手術が行えたとしても、その影響はないのでしょうか?
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とてもよい質問ですね。血糖値が高い状態で手術を行うと、網膜症の症状が進行する可能性があります。そのため、術前の網膜症の評価や、術後の経過観察をしっかりと行うことが大切です。
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糖尿病網膜症がない糖尿病の人では、手術の適応は支障ないのですか?
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網膜症がない人では、白内障の手術は問題なくできます。網膜症が軽度の人では、むしろ手術を早く行うほうがよい場合があります。白内障で水晶体が濁っていると、目の奥にある網膜の様子を見る眼底検査の妨げになり、仮に網膜症が進行して、網膜剥離など失明の危機につながる疾患の兆候があっても見逃してしまいかねないからです。正確な眼底検査を行うためにも、白内障手術を早期に行っておくことが役立ちます。
まとめ
糖尿病であっても、手術を断られるケースはほとんどありません。かつては糖尿病が進んでいると、手術合併症である感染症にかかるリスクがあることが理由で、手術を断られることがありました。しかし近年の白内障の手術の進歩は著しく、手術合併症のリスクも大幅に押さえられています。しかし全身状態が悪い場合には、内科治療を優先させることもあります。糖尿病が進行すると、全身の血管や神経が傷む重篤な全身性の合併症が引き起こされます。血管では微小な血管があるところほど、その影響が出やすく、糖尿病網膜症はそのひとつです。
網膜症が進行している場合は、白内障治療と同時、または前後に治療を行います。薬物による治療、外科的な治療法があり、これらを状態に合わせて、組み合わせながら行います。血糖値が高い状態で手術を行うと、網膜症の症状が進行する可能性がありますので、術前の網膜症の評価や、術後の経過観察をしっかりと行うことが大切です。糖尿病網膜症がない人は、白内障の手術は問題なくできます。網膜症が軽度の人は、むしろ手術を早く行うほうが、正確な眼底検査を行うために役立ちます。


監修:佐藤 香
アイケアクリニック院長、アイケアクリニック銀座院院長。集中力を要する緻密な作業を得意とし、とくに最先端の白内障レーザー手術において抜群の治療実績を誇る。そのほか、網膜硝子体や緑内障の手術も担当。まぶたの手術やボトックス注射など、眼科医としての視点を活かした目周りの美容にも注力。また、校医を務めるなど、地元住民のかかりつけ医として地域医療にも貢献している。日々のちょっとした悩み相談から高度な治療まで、総合的な目のケア――「トータルアイケア」の提供を目指す。現在、注目の眼科女医として、テレビやラジオ、新聞、雑誌など、さまざまなメディアに取り上げられている。著書に『目は若返る』『スゴい白内障手術』(幻冬舎メディアコンサルティング)がある。