片目だけ白内障です。でももう片方はよく見えるので、手術はまだいらないでしょうか?
ご相談者様

片方の目だけ白内障なのですが、もう一方はよく見えています。いずれ両目とも白内障になると思いますが、それまでは手術しなくても大丈夫でしょうか?
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片目だけ発症するケースとして、可能性が高いのが「外傷性白内障」です。これば目にケガをしたり、ボールがぶつかったりした場合など、そのときの衝撃によって徐々に水晶体が濁ってしまい、発症するタイプです。
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えっ、目のケガや打撲が原因で白内障になることもあるのですか? 知りませんでした。
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目のケガは、幼少期など特に誰しも経験がありそうなものですよね。
片方の目だけが白内障になったケースでは、特に2つのことに留意していただきたいと思います。まず1つは、白内障によって片目だけ視力が落ち、そのまま年単位の時間が経過すると、「両眼視機能」といって両目でものを見る力が徐々に弱くなっていく、という点です。左右それぞれの目で見た像を脳で1つにまとめる機能を「両眼視」といい、これは物の立体感や遠近感を正しく把握するのに重要な働きを担います。両眼視が失われていくと、奥行きをうまく把握できなくなってしまい、日常生活のなかで不便なことがたくさん生じてしまいます。ですから、片目だけの白内障といっても手術を先送りにしすぎず、適切なタイミングで迷わず行うのが適切な対応です。 -
「両眼視機能」ですか…。2つの目には、同じくらい「見る力」を持たせることが重要なのですね。
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もう1つは、どんな病院で手術を受けるか、という点です。外傷性白内障の場合、手術の難度が上がる可能性があるためです。
目の中には「水晶体嚢(のう)」といって、水晶体を包むハンモックのような袋があり、さらにその水晶体嚢を支える「チン小帯」という組織があります。これは水晶体を除去して眼内レンズを入れた際にも、眼内レンズを支えて固定する役割を担います。
ところが外傷性の場合、かつて目に受けた衝撃によってチン小帯が傷つき、切れて弱っていることがあります。すると眼内レンズを入れる際、眼内レンズや水晶体が目の奥に落下する危険性があるのです。
もちろんそんな緊急事態を防ぐ手段として、水晶体の袋(嚢)を目の中に固定するリングを使うのですが、そもそもこの装置を扱える眼科医は多くありません。日本眼科学会の定めた講習を終了した医師に限られているため、どの病院でも行える手段ではないのです。 -
それは大変ですね。もしその装置を扱わないクリニックで手術を受けて、水晶体などが目の奥に落下した場合、どうなるのでしょうか?
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その場合、施術の形式が切り替わって白内障手術から硝子体手術を行うことになり、一気に難しくなります。残念ながら対応できない医師も少なくありません。それでもすぐに別の病院で硝子体手術を行えればよいのですが、受け入れ先が近くにないということも考えられます。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも病院選びは慎重にしたいですね。安心して手術を受けるためには、リングを扱える医師がいて、万が一の事態にも対応できるクリニックを選んでいただければと思います。


監修:佐藤 香
アイケアクリニック院長、アイケアクリニック銀座院院長。集中力を要する緻密な作業を得意とし、とくに最先端の白内障レーザー手術において抜群の治療実績を誇る。そのほか、網膜硝子体や緑内障の手術も担当。まぶたの手術やボトックス注射など、眼科医としての視点を活かした目周りの美容にも注力。また、校医を務めるなど、地元住民のかかりつけ医として地域医療にも貢献している。日々のちょっとした悩み相談から高度な治療まで、総合的な目のケア――「トータルアイケア」の提供を目指す。現在、注目の眼科女医として、テレビやラジオ、新聞、雑誌など、さまざまなメディアに取り上げられている。著書に『目は若返る』『スゴい白内障手術』(幻冬舎メディアコンサルティング)がある。