⽩内障⼿術後、乱視が悪化した友⼈がいます。私も乱視があるので、⼿術が不安です。
ご相談者様

白内障手術を受けようと思い、友人たちに口コミを聞いて回っています。そんななか、「白内障の手術をすれば副次的に乱視もよくなる」と担当医にいわれたにも関わらず、術後かえって悪化した友人がいます。そんなことがあるのでしょうか? 私も乱視があるため不安です。
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残念ながら、ないとはいえないのが実情です。いくつか原因が考えられますが、その説明をする前にまず乱視とはどのような状態なのか、触れておきましょう。
乱視の人は、レンズに当たる角膜や水晶体に歪みがあるために、焦点を一点に合わせることができない状態です。目から入る光がその歪みによって分散されるため、スクリーンの役割を持つ「網膜」にはっきりとした像を結ぶことができず、ものがぼやけて見えるわけです。水晶体のほうに原因のある乱視であれば、白内障手術自体が水晶体の中身を人工の眼内レンズに入れ替えるものなので、白内障の手術と同時かつ副次的に乱視を治すことができます。一方、角膜の歪みが原因の乱視においても、たいていの場合は、乱視矯正用の眼内レンズ(トーリック眼内レンズ)を使うことにより、メガネやコンタクトレンズを装用した場合と同じように乱視を矯正することができます。
これを踏まえたうえで本題に移りましょう。ご友人の乱視が白内障手術後に悪化してしまった理由は、主に3つの観点から考えることができます。まずは、①「眼内レンズの度数がズレた」のではないか、ということです。眼内レンズの度数は、通常、眼球の奥行きの長さと角膜のカーブの度合いを計測して決めるのですが、これに誤差が生じると度数ズレに直結します。レンズの度が合っていなければ、それに比例して見え方までぼやけてしまいます。計測の誤差が生じる要因としては、丁寧な計測を怠ったことや、また患者さんがドライアイになっていたこと、レーシックの手術を受けていたこと、長らくコンタクトレンズを装用していることなどが挙げられます。 -
友人には詳しく事情を聞いたのですが、そのどれにも該当しないように思われます。
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なるほど。しかし、まだまだ考えうる原因はあるのです。
乱視が悪化した原因として次に考えられるのは、②「不正乱視を見抜けなかった」ということです。眼内レンズの度数のズレを防ぐために、眼科医は細心の注意を払って計測を繰り返します。しかし角膜の一部が突き出ていたり、表面が不規則に凸凹していたりする「不正乱視」だと、白内障手術のルーティーン的な検査では見逃してしまうことがあるのです。これを見逃すと、度数を決める計算式がズレることにもつながります。特にレーシック手術を受けた人の角膜は通常の角膜とは形状がかなり異なっているため、要注意です。患者さんがレーシック手術を受けていたことを知らずに白内障手術を行うと、必ず遠視になってしまうため、術後に見え方が大きく変わってしまったというご不満が生じます。 -
なるほど。角膜に問題のある乱視だと通常の計測では難しいところがあって、特にレーシックの経験がある場合は事前に伝えることが肝心なのですね。しかし、友人がレーシックを受けたことがないのは確かです。
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そうなのですね。最後に考えられるのは「手術の精度」です。乱視のレベルにもよりますが、乱視のある患者さんが白内障手術を受ける際、医師にはレンズを入れる角度や固定位置などの正確さが厳しく要求されます。非常に高い精度が求められるため、医師の手技で行う場合には極めて難しく、どうしても限界があるのです。
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極めて高い精度が求められるのに、医師の手技だけでは難しいのですか! これは困りますね。精度を保つ方法はないのでしょうか?
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ご安心ください。最近では白内障手術をアシストしてくれる優秀な機器が登場しました。一台だけで数千万円もする高額な機器ばかりですが、極めて精度の高い手術を可能にしてくれるのです。ご参考までに、その一部をご紹介しましょう。たとえば「ベリオン」と呼ばれる機器は、適切な切開位置とレンズの位置をガイドしてくれるものです。乱視を矯正する場合は、手術前の検査から術中まで、乱視の状態を正確に把握することが重要になります。これまではレンズの固定位置を正確に記録するために直接目にペンで印をつけていた医師もいましたが、ベリオンを使用すれば、血管や虹彩の特徴などを記録して追跡してくれるので、手術中の軸のズレを補正して、常に正しい切開位置やレンズの位置を示してくれるのです。多焦点眼内レンズや乱視矯正など精度の高い技術が求められる白内障手術においては、必要不可欠な機器となっています。私は国内でもっとも早く導入した医師の一人ですが、手術のポテンシャルを上げてくれるとても優秀な機械だということを実感しています。
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最近ではそのような凄い機械があるのですね。友人の乱視が悪化した原因はそれかもしれません。友人に手術時の流れや様子を何度も聞きましたが、そのような機械の話は一度も聞いたことがなかったので…。友人が手術前に知ることができていればと残念でなりませんが、おかげさまで大変参考になりました。ありがとうございます。
まとめ
残念ながら、ないとは言い切れないのが実情です。白内障手術後に乱視が悪化してしまった理由は、主に3つの視点から考えられます。まず一つは「眼内レンズの度数がズレた」ということ。次に考えられるのは「不正乱視を見抜けなかった」ということ。最後に考えられるのは「手術の精度」です。一つ目の原因である「眼内レンズ」がズレると、比例して見え方までぼやけてしまいます。二つ目の原因である「不正乱視」とは、角膜の一部が突き出ていたり表面が不規則に凹凸していたりすることです。この不正乱視を見逃すと、度数を決める計算式がズレるため、結果的に乱視を招くのです。三つ目の「手術の精度」ですが、患者さんの乱視のレベルによりますが、乱視の方が白内障手術を受ける際、手術には非常に高い精度が求められます。このため、医師の手技のレベルによっては術後に乱視を招いてしまうのです。これらの課題を解決するため、最近では白内障手術をアシストしてくれる優秀な機器が登場しました。例えば「ベリオン」と呼ばれる機器があるのですが、これにより医師の手技による乱視を高い確率で防ぐことができるようになったのです。


監修:佐藤 香
アイケアクリニック院長、アイケアクリニック銀座院院長。集中力を要する緻密な作業を得意とし、とくに最先端の白内障レーザー手術において抜群の治療実績を誇る。そのほか、網膜硝子体や緑内障の手術も担当。まぶたの手術やボトックス注射など、眼科医としての視点を活かした目周りの美容にも注力。また、校医を務めるなど、地元住民のかかりつけ医として地域医療にも貢献している。日々のちょっとした悩み相談から高度な治療まで、総合的な目のケア――「トータルアイケア」の提供を目指す。現在、注目の眼科女医として、テレビやラジオ、新聞、雑誌など、さまざまなメディアに取り上げられている。著書に『目は若返る』『スゴい白内障手術』(幻冬舎メディアコンサルティング)がある。